大それた言葉よりも実感
自然体だから続く“町のスタメン”

麻尾 雄治さん

麻尾商会

少ない人数でいろんなことをやって。なんていうか、上下関係もなく友だちみたいな感じで、だんだん楽しくなっていって。

この町で生活してきたから、この町にある自分の仕事をやる。それを美郷町で全うしてきた一つに、車の販売と整備を請け負う粕渕商店街の「麻尾商会」があります。現在経営を担うのは3代目となる麻尾雄治(あさおゆうじ)さん。「車は一人一台」の美郷町の生活では、一家全員の車の面倒をみることも少なくありません。

戦後間もない頃に麻尾さんの祖父が創業。当時、車はまだまだ手のでない高級品だったため、二輪のバイク屋としてはじまりました。後を継いだ理由は「特別には...あまりないかもしれんです(笑)」。とはいえ、子どもの頃からプラモデルが好きで、なんとなく自分の家が機械いじりをしていることは知っていたと振り返ります。

高校を卒業後に同級生2、3人と県内の自動車整備の専門学校へ。その後、地元に戻って家業に入り、資格の取得をしながら仕事を覚えて。現在は、妹さんと30代半ばの若手を含めて4人で業務にあたります。

麻尾さんといえば麻尾商会での仕事もそうですが、青年団、消防団、商工会の青年部に所属して町の自治にも取り組んできたこと。消防団への参加は同世代では一番乗り。20歳の頃で、当時はおじさんのなかにぽつんと自分が一人。「下っ端といえばそうかもしれません(笑)。後から同世代や後輩が入ってきて、いつの間にか楽しくなりましたね」。各団は、やることは違えどメンバーをみれば大体同じ顔ぶれ。消防団は有事は少なくとも訓練は多い。そのほかお祭りなどの年間行事のときには、加えてその練習にも参加します。

田舎ならではの忙しさをうんと知っている麻尾さん。「田舎ってこういうのもあるから忙しいんですよ。こがあ忙しいと思わんかった、と言う人もいますね」。そしてその田舎ならではの忙しさに、実は自ずと町づくりの基盤があることも知っています。

祭りをはじめとするいろいろな行事でもみんなで顔をあわせる。合間にみんなで飲んだりもする。「わりあいなんでも話して相談できますし、向こうのこともいろいろ聞きます。農業から電気水道、電器屋、役場の職員、それからスポーツ店、旅館業...とにかくいろんな職種の人間が顔をあわせますから。それができることは大きいですね。いち早く地元の自治に参加した理由、掛け持ちして続ける理由を聞くと、これにもまた「だいそれたものは...なくてですねえ」。

「なんていうか自分たちがやらないと、という思いがあるんでしょうねえ。それは自分だけでなく、清水くんも福田さんも、烏田くんもきっとそう」。団員には昔からの馴染みも多く、少年野球団から一緒だったという人もちらほら。

なにか目的をもって集まるのではなく、自分がこれをしたい、というのが一番手前にあるわけでもなく。そこにあるのは「この町で生活しているから、一緒にやることがおのずとある」ということ。請われればいつの間にか100パーセント以上でやっている。みんなでやっている。
美郷町は「暮らしやすい町だと思います」と、麻尾さん。不便さは少なくない町で、一言目にすっぱり暮らしやすいと言えてしまう。それは「ここで生活しているから」というシンプルな動機で町のために動く人たちを知っている、という実感と信頼があるからかもしれません。

なにもドラマチックさはなく、仕事でも活動でも意識せずに紡いできた「親の世代、自分、まわりの顔馴染み、子ども、孫がいる」という明快な一つの根源。言葉にするとともすれば野暮な、毎日の生活でやってきたからこその町に根ざす醍醐味を知っているのが、麻尾さんなんです。

麻尾商会

生活に車が欠かせない町だからこそ、麻尾商会のサービスはどこまでも顧客本位。車輌や用品の販売からカーコーティング、各種整備まで、確かな技術とまっすぐな人柄で応えます。常連さんには、ボトルキープならぬ “オイルキープ” も。日常の大切な足を、どっかりと預けられる安心感が、ここにはあります。

所在地:島根県邑智郡美郷町粕渕176番地16
TEL:0855-75-0066
FAX:0855-75-1646

Text by Sako Hirano (HEAPS)

本記事は2023年10月の取材に基づいて構成したものです。