変わらない景観の在り処
“遠くて近い” 暮らしのつくり手

渡利 八壽男さん

西島 勲さん

ひじきドリーム

家からは、遠くまで、集落全体が見晴らせて、その景色が一番好きです。そのなかに雑木1本でも生えたらそんなこと言えなくなりますから。

比敷集落が一丸となって「農事組合法人 ひじきドリーム」を発足してから28年。現在、総戸数23、農家戸数23。互いの田畑を協力して運営する集落営農に取り組んできました。季節を通した農業と収穫物の加工と販売を続けています。

昭和55年から圃(ほ)場整備などの基盤固めをすすめ、平成8年には全国でも先例となる農業組合法人化へ。高齢化にともない、個人では管理がままならない田畑を協力して運営しています。草刈りや水管理などはできる限り自分の家で続けてもらいつつ、できなくなった部分を誰かが請け負う。「だいたい近い家同士で助け合いますね」とは、渡利八壽男(わたりやすお)さん、そして西島勲(にしじまいさお)さん。比敷出身で、現在ひじきドリームの中核を担う二人です。それぞれ県外で働いていた時期も長く、ひじきドリームは「帰省したときに実家の農業を手伝うというところからはじまって」。本格的に携わるようになったのは、比敷に帰ってきてから。

ひじきドリームの最大の強みは、集落内の人達それぞれの暮らしぶりを互いになんとなくわかること。「誰が元気だなとか、働いておられるなとか。あそこの家の人は最近見ないと思ったら、どうやら体調がよくないみたいだ、というのがわかりますから」。隣の家は200メートル離れているものの、比敷の暮らしはとても近い。

水稲においては8.0ヘクタールを最大5人でまわしきります。冬場の、特に女性の働き口の確保のために「ドリームもち」をはじめとした加工品にも力をいれる近年。県外のイベントにも積極的に参加しています。地域おこし協力隊の若者のアイデアの種によって生まれた新製品(ポポーの実を加工したポポージェラート)も。実直な活動の傍、自分たちだけでは気づけない町の魅力も積極的に形にしています。

「発足当時から(田畑の)面積は一切減っていません。いまの土地を守っていく、耕作を続けるようにするんだという思いがあります。田畑を荒らさない、これが活動の主軸です」。そこには、耕作地面積が減少すれば助成金の関係で存続すら厳しくなる、という現実も。「ほかの家が荒れたら自分の土地にも被害がくる。だから当然、自分の暮らしを守ることは自然と隣の人の家、そして集落全体を荒らさないようにしていくこと。そんなところで頑張っております」と渡利さん。「身体はねえ、大変ですけども(笑)」と西島さん。

二人の親世代に着手した田んぼの圃(ほ)場整備や、各家の道路に車が入れるようにした基盤整備があったからこそ、今の比敷という集落は続いていると言います。とはいえ、やはりこう強調します。そういった時代とともにある“手入れ”以外は「昔となんにも変わっとらんです」。

田舎はありのままの自然ではなく、人間が暮らしてはじめてできる景観。失わないためにやることは、そこで暮らして、人の手を入れ続けること。「集落を見渡せる自宅からの景色がなによりも好きなんです」。だから、荒れないように「枝を切らないといけないし、草を切らないといけんとかやることがたくさんありますよ」。必要に駆られ体を動かすのは「ちょっとね、かえって元気がでます」と二人。

ずっと変わらない見晴らしが、比敷にはあり続けています。この時代にはある種の夢のような…。だけどそこには、集落の日々と季節という現実に、こつこつと積み重ね続けている手があるからこそ。

ひじきドリーム

美郷町で採れた農作物を美郷町で仕上げたひじきドリームの加工品は、ふるさと納税の返礼品として人気を集めています。もち米の最高品種のひとつとして知られるヒメノモチを杵つきにした『ドリームもち』。甘みの強いさつまいも「紅はるか」でしっとりやわらかく仕上げた干し芋『とぶゾーくん』。どちらも手作りのため数には限りがありますので、お求めはお早めに。

ふるさとチョイス
ふるなび
楽天ふるさと納税
セゾンのふるさと納税

Text by Sako Hirano (HEAPS)

本記事は2023年10月の取材に基づいて構成したものです。