その懐は、湧き続ける温泉のようにじわじわあったかい。活力の“源泉”をあたため続ける人

田邊 康文さん

千原温泉・千原湯治場

いままで気づかなかったものを見つけてもらって、変わっていくことも楽しい。
うん、楽しい。それが一番ですねえ。

町が元気であり続けるために名湯を守る。それが、美郷町の山間に明治からある千原温泉・千原湯治場。底板から湧き出る温泉に直接入れる、珍しい温泉です。

「“日本一”のうちをきっかけに、美郷町そのものを知ってほしい」とは、千原温泉を営む田邊康文さん(72)。親戚の縁で2016年より先代から引き継ぎ、今年8年目へ。2021年には、ひなびた温泉マニア愛好家が選ぶ「日本百ひな泉」全国100温泉の第1位に選ばれました。

もともとは、地元の人の湯治場として日常的に利用されてきました。町の人の湯治場であり続けながら、また外の人が訪れる名湯でもありたい。美郷町へと人を呼び込み、知ってもらうきっかけになるのが「自分たちの役割」だと言います。

先代では女性が一人、山奥で湯を守りました。いい温泉があるのに失くしてしまうのはもったいない。守りたいという思いから継いでみたら「やめられなくなっちゃった(笑)」。そんな軽やかな冗談とは裏腹に「継いだからには」という思いが滲みます。

「こんないいお湯があるなら、こんなことをしてみたらいいんじゃないかと、若い人とも一緒に考えていきたい」と田邊さん。「移住してきた人たちが、町に生まれて育った自分たちでは目もくれなかったものを宝物にしてくれる。思いつかなかったアイデアをくれる。どんどん教えてもらって、みんなでそれぞれが強い点になって、町を元気にしていきたい」。

美郷町には、温泉は3つある。山野草も、川遊びもある。「友人や家族で遊びにきて、それぞれ満足して愉快に帰っていってもらう。そんな町にしていきたいですよ」。

昔からの顔馴染みの地元の人たち、そして新たに地元の人になった移住者の方たちと、美郷町を続けていく。湯船にわきあがる気泡のように、思いもやる気も毎日、ぽこぽこ、ぽこぽこ。名湯は美郷町へのじんわりあたたかい入り口、そして活力の源泉です。

千原温泉

大きい道から山道に逸れ、奥へ奥へと入っていって少し不安になるころ、静かに流れる川のほとりに千原温泉は現れます。黄褐色に濁った湯は、決して熱くはないのに、濃厚な成分とバブ効果のおかげで、体全体をふんわり温めてくれます。かつては療養のためにしか入れない本格的な湯治場でしたが、今では家庭の駆け込み寺として頼りにされています。

所在地:島根県邑智郡美郷町千原1070
TEL:0855-76-0334
FAX:0855-76-0334
営業時間:4月〜10月 8:00〜18:00(最終受付17:00)
営業時間:11月〜3月 8:00〜17:00(最終受付16:00)
定休日:木曜日
入湯料:大人一回500円 子供一回300円
HP:http://chihara-onsen.jp

Photos by Yusuke Nishibe
Text by Sako Hirano (HEAPS)

本記事は2023年3月の取材に基づいて構成したものです。