やりたいことをやれる、だけじゃなく
“ありたいようにあれる” を伝える美郷町の話し相手

唐溪 悦子さん

西光寺

何かあったときに、あるいは何にもなくていいんですけど、町の人が相談できる人でありたい。

こんな二拠点生活を送る人はきっと二人といないかも——そんな人がこの町にいます。島根県美郷町と兵庫県尼崎市で二拠点生活を送るのが、唐溪悦子(からたにえつこ)さん。
尼崎市ではまちづくりを軸に企画や運営を行う企業に勤め、地元の美郷町ではお寺を継ぐ僧侶として。現在は子育て中ということもあり、1ヶ月のうち1週間を尼崎、残りの3週間を美郷町で過ごします。

きっと二人といない、とは、会社勤めと僧侶という一見かけ離れた二つを両立するユニークさというよりは、むしろその二つを「どちらもあって一人の人間」として実践しようとするそのスタンス。唐溪さんは、二拠点間で役割も生活もガラリと変えるのではなく、企業で働く自分も僧侶である自分も同じ一人の人間、というあり方を実践します。お寺の僧侶として人の話を聞き・話をし、会社では企画運営や組織開発に携わる。どちらにも通ずる「人とどう向き合えるか・どう一緒に伴走できるかを考える」が、唐溪悦子という一人の人間のベースにあると話します。

浄土真宗本願寺派・唐溪山・西光寺19代目。僧籍を取得したのは高校2年生のとき。「継ぐことを早くから決めていたわけではなくて、その時の家の事情をみて自然なことだったんです」と、遊び盛りの夏休みに2週間で得度した当時を振り返ります。

大学への進学を機に鳥取県へ。卒業後は、一般企業に就職。「社会を知らない自分がお坊さんとしてなんの話ができるだろう」という葛藤があり、社会人経験を積むことを選んだといいます。以来、“もう一つの拠点“を持ちながら生活を続けてきました。

「私が地元に還元できることってなんだろう。それは町の中と外を繋ぐことだと、そう思うんです」。唐溪さんの言う“繋ぐ”は、人や物事だけでなく、生き方や考え方を繋いでいくこともそう。多様にある生き方への考えやアプローチ、また生きづらさや悩み、そういうものに出会い、地元のお寺に持ち帰る。生き方に関するイベントの主催や登壇の機会も多い唐溪さんは「誰かが気軽に相談できる人でいたい」と言います。その「誰か」を問うと「.....やっぱり地元の方たちですね。私がこれまでずっと知ってきた人たちです」。中学生や高校生、同世代、親世代、地元のおじいちゃんおばあちゃん。小さな悩みや生きづらさ、秘めている気持ち、こう生きたいという想いを自分が聞けたら。

「自分がお預かりしているお寺が、多様な場所になればと思います。それには、まずは自分の中の多様さを認められないと、他者の多様さって受け取れないんじゃないかって」。

「やりたいことをやれる」というよりは「ありたいようにあれる」。それをもう一つの拠点をもってまずは自ら実践してきたのが唐溪さんのユニークな所以です。「実は」お坊さんでもある一人の人間として、地元に伝えていきたいことはたくさんある。

誰かに相談したいな、お寺に行こうかな、というよりは「唐溪さんのところに行こうかな」になったら。地元の人との関わりを柱に、守り守られてきた数百年のお寺に、外から持ち帰る“いろいろ”を備えて芽吹くのは——これまでに捉われない軽やかさと新しさを持ちつつも、本質的なところでは変わらない「町の人のための場所」。ありたいようにある、を等身大でやっている一人の人間、唐溪さんの居るところ。

西光寺インスタグラム

西光寺のインスタグラムには、美郷町の豊かな風景やお寺での日常が、唐溪さんの素朴な視点で写し出されています。日々の中でふと肩の力を抜きたい時に覗いてみてはいかがでしょうか。そしていつか、西光寺へも足をお運びください。

インスタグラム:@shimane_saikoji
所在地:島根県邑智郡美郷町宮内501

Text by Sako Hirano (HEAPS)

本記事は2023年10月の取材に基づいて構成したものです。